2008年08月

アフガンでの「痛ましい事故」のニュースが減ったようだ。
しかし、朝日新聞8月29日付1面には、「中村氏はペシャワール会の現地事務所に06年から日本人を拉致するとの脅迫があったことを明らかにした」との記事が載っていたという。 社会面には、「一昨年から活動に対して脅迫めいたものも続き、日本大使館からは極力用心するように言われていたと。 (脅迫は)昨年が一番多かった。日本人を拉致する計画があるとの内容だった。荒唐無稽な内容で、韓国人の拉致事件を模倣したいたずらだと考えていた」と…

タリバーンは「外国人の誘拐は、非常に有効な戦略だ」とするコメントを、2年前からこれまでに度々出して来た。ペシャワール会への誘拐予告に対し、「ジャララバード周辺の日本人のボランティアが狙われている」と心配していた人たちがいたことを、オバハンは特記しておきたいと思う。

とかく、日本にいるとアフガンやパキスタンの現地事情や、人心、思考回路は見えない。ついつい自分たち日本人の価値観や思考で判断してしまいがちだ。短期(2~3年)の滞在では物事を比較検討する範囲も狭い。現場のボランティアたちにも治安状況が把握できていたか、どうかは怪しい。残酷な現実を突きつけられた今となって、初めて理解したこともあったろう… 
アフガンもパキスタンも時間と共に人心も変わって来ている。古き良き時代のアフガンやパキスタンのイメージで現地を考えてはいけないという教訓でもあることを、オバハン自身も戒めておきたい。

日本の友人たちからのメールには「ミャンマーのカメラマン射殺、イラクの人質殺害に比べて報道が少ない」と。
アフガンの土になっても良いという崇高なる覚悟と、大地を緑にするという目的をもって「殉職」した伊藤さん、そして今までに抜群の成果を上げてきたNGOに対しては「突っ込む報道」はないようだと友人たちは言う。しかし、この事故をもって紛争地で活動するNGOの存在が改めて問われるのだろう。「紛争地に必要なのは、武装した復興支援部隊でないとダメだ」とか言われたら、オバハンは泣くにも泣けないが…

ただハッキリ言えるのは… 多国籍軍やNATOが駐留しているから治安の悪化を招いたのではない。それも原因の一つではあろう。しかし、元々はアフガン(人)の問題でもあろう。 アフガンはその昔2度も英国を撃退した。ソ連も敗退し、ソ連はそれで崩壊に至った。彼らが大国を相手に勝ち続けるのは、彼らが外国勢力とは馴染まない徹底した排他性、粘り強い精神力、復讐心を持ち続けているからかもしれない。特にアフガン人口の50%以上を占めるパシュトーン族の「掟」が、イスラーム教の聖典コーランと共に生活基盤にはあるからだ。
今回の事故をアフガンに駐留する多国籍軍や、NATOのせいだと責任転嫁をするのは筋違いだろう。また、そんなふうに政治化させてはならないような気がオバハンにはしている。

カーブルでの葬送では在アフガン日本大使が、「アフガンを失敗国家としないためにも、伊藤さんの遺志を継いで努力していきたい」と挨拶したと報道されている。揚げ足を取るつもりはないが、「失敗国家としないためにも」とは、なんたる言い草であろうか…。そうした欧米日の高所からの目線が、プライド高いアフガン人からの反感の大元になっていることにも、大使は気づいていないようだ。
日刊現代は辛らつな記事を掲載していた。「アフガンで日本人が拉致、殺害された事件は、情報に振り回されるだけで何ら機能していない外務省の役立たずぶりを露呈した。外交は情報が命。情報収集のため世界各国に大使館を置き、外交官を派遣しているのにニセ情報に振り回されるだけとは情けない。それなのに、月給は106万円! 諸手当などを含めると、ざっと年収1500万円から2000万円にもなるという」
在ア日本大使館、在パ日本大使館は偽情報に振り回されたのではない。スタッフの休暇で情報確認が的確に出来ない状況にあり、未確認情報に疑問を持ちながらも(発表時間を決めてしまったからと)、地元ジャララバードでは死亡記事が出ているにもかかわらず、そのまま「解放」と流したのが事実だ。
解放から死亡への暗転ニュースは、なんと残酷なものであろうか。全てが、かえすがえすも無念でならない。

「アフガンで日本人が誘拐」とのニュースを聞いて丸2日以上がたち、重苦しい気分は時間と共に増幅している。夜は腹立ち熟睡出来ず、昼間はネットの記事を読み歩き、納得できずに腹立てている。  亡くなった伊藤さんのお父さまの「怒りを感じる」というコメント、それを当然のこととしながらも、タリバーンや武装勢力が悪いと単純に切って捨てることが出来ないからだ… 中村先生ご自身も、かねてよりタリバーンには強いシンパシーを持っておられるから、怒りを何処へ!?と感じておられることだろう…

単なる強盗や誘拐をビジネスとする集団であれば、そこへストレートな怒りを向けることが出来る。だが、真性タリバーンや武装勢力は主義主張を持って行動している。 
反政府武装勢力タリバーンの報道官は、共同通信の電話取材に応じ「すべての外国人がアフガンを出るまで殺し続ける」と述べた旨が報道されている。報道官は「このNGOが住民の役に立っていたことは知っている。だが、住民に西洋文化を植え付けようとするスパイだ」と主張しているが、そう教えられ、そう思い込んでいる現地人は多い。

あくまでも仮の話だが、反対の立場で考えてみれば解る。日本へタリバーンたちがやって来て善意から「コーランに忠実に生きれば天国に行ける」とか、男は髭を長く伸ばせだの、男を惑わせる存在の女は家から出るな等々、彼らの信じるところを親切に述べれば… 私たち日本人は素直に受け入れるのか?  そうした理解不能な価値観を押し付ける部外者を、力を持って排除しようとする「大和魂」のグループが出るかもしれない…

アフガン人(パキスタン人)たちが暮らすアフガン(パキスタンなど)へ踏み込んで、「善意の支援」をしているのは我々国際社会の一員だ…。  パキスタン人として暮らしているオバハンですら、30年以上も当地で暮らしているにもかかわらず、当地(文化や価値観)に対する遠慮は大きい。 また自分自身が現地に100%受け入れられ、信頼されているなどとは想ったこともない… 
ましてや3年以上も前から治安の悪化が言われ続けているアフガンだ、オバハンの肌感覚では信頼できる現地人と一緒でも、警官や兵士の護衛なしでは怖くて遠出など出来なかった。つい先日も知り合いのカメラマンがアフガンへ取材に行くというので… 「移動には、必ず護衛の警官を3人くらい付けるべきだ」と強硬に言い募った。オバハンの常識では(抑止力としての)護衛は必須だ。

支援現場では度々、若い人とオバハンはぶつかる…
弱っている病人や負傷者を可能な限り診たいと、意欲的な若いボランティアたち。支援現場を出来るだけ多くの人に見てもらい、支援に理解を持って貰おうとする若い人たち。ボランティアの若い人には、困っている人を目の前にしながら下すオバハンの判断や、支援現場への「拒絶」はなかなか受け入れ難いようだ。オバハンのやり方が納得できずに離反する人もある。
しかし30年以上も当地で暮らし、数々の「事故の後始末」を陰で手伝って来たオバハンには、現地責任者として譲れないものが度々ある。 現地の雰囲気を肌で感じるとでも表現すればいいのだろうか? 言葉では表現できない、危険と感じる空気が醸成されている時というものは、あるのだ。

善意の支援活動が文句なしに現地に受け入れられることなど、長年の経験からもあり得ない。 何処からの支援もない、誰も行かない場所だからこそ支援が必要というのは当然だが、現場責任者としては守らなければならない「自分たちの命」が常に最優先となる。
とは言え、どんなに気をつけていても事故に遭うこともあろうが…それは神のみぞ知る。

朝晩の涼しいギルギットから急遽、蒸し暑いイスラマバードへ戻って来た。 今朝は雲が多く小型機が飛んでくれるのか、どうか?と案じられたが、ほぼ時間通りにプロペラ機が谷間の向こうに見えたと思ったら小さな飛行場の小さな小さな空港ビル前に着陸。 アフガンでの日本人拉致がどんなふうな展開になるのか分からないというのもあるが、急に事務所での仕事も立て込み、気分は慌しい。

日本の報道では、昨日のアフガン政府発表「誤報」を警戒してか、さしたるニュースは載っていない。 しかし空港から事務所へ向かう車中で聞いた情報では、アフガンの地方紙(Pajhwok Afghan News)には、村人と武装集団との銃撃戦で日本人が死亡と載っていると…。情報が錯綜しているアフガンの事ゆえ、事実かどうかを関係者たちは必死になって確認を急いでいることだろう。もし事実なら…物凄く残念だが。

日本では、「現地の信頼厚いはず」 「古くから支援に尽力してきたペシャワール会のメンバーですら狙われるのは、長年、戦争が続き、教育が行き届いていない。NGOの存在が理解されていない」 「ペシャワール会は、徹底的に地元密着型で活動しているという。現地で恨まれることは考えにくい」等と指摘をしている人たちがいたが、多くの日本人は「支援活動」を少し考え違いをしているでは??

タリバーンにしろ、武装集団にしろ、各々信じるところに拠って行動している。その価値観がまったく異なる集団に向かって「地域住民のための支援だ」などという善意は通じない。  また、昨日も少し書いたが、受益できない人たちからは大いに恨まれていると認識すべきだろう…。 支援活動では利益を受けることの出来た10人が(その恩恵をもたらした神へ)感謝し、後の10人は利益をもたらさなかったNGOを恨むと考えるべきだ。
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日本からの報道陣に対し、在パ日本大使館では「遺体確認」の談話を発表するようで、昼ごはんも食べずに報道陣は飛んで行った。昨日は「解放」とのニュースが流れただけに、暗転の結果を迎え、ご家族の心痛は如何ばかりか…

夏のシーズンも終わりかけたので、モンスーン末期の蒸し暑いイスラマバードを離れ、ギルギットに来ている。昼間はまだまだ暑くて汗が出るが、イスラマバードに比べ乾燥地域のギルギットは過ごしやすく、良く寝られる。快適。
毎朝の短時間ミィーティングの後、バザールで買出し中にイスラマバードからの電話。電話が何よりも嫌いで携帯を絶対に持たないオバハンなので、運転手の携帯電話にまで事務所からの仕事が追いかけて来た…   曰く、「ペシャワール会の日本人スタッフが誘拐された」と。 で、アフガンの取材の手配準備をヒマラヤ山中からすることに… 
詳細は分からないものの、ペシャワール会にかって勤めていた関係者たちによれば、今までにも誘拐予告はあった由。中村先生を初めスタッフの方々も重々、気をつけておられただろうにと今後の成り行きに目が離せない。しかし、大変なことになったものだ。

超怖がりなオバハンが現地責任者をつとめる「アフガン難民を支える会ーSORA」などは、アフガンでの支援活動を超縮小。びびりまくってカーブルから外へも出ない。スタッフたちが誘拐されても身代金も出せない弱小NGOのオバハンたちには、首都圏内での活動しか出来ない。   日本人であるオバハンの安全基準とは異なるアフガンのスタッフたちだが、彼らからもついに「首都も危なくなりました」と、先日メールを貰ったばかりだ。
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先ほど、解放情報。やれやれ~~と思ったのもつかの間、誤報だって?? まったく振り回されるワ…

パキスタンとアフガン国境をまたいでビジネスをしている現地の人たちに色々聞いてみたら…
彼らの話を総合すると、「ジャララバード周辺では現地の金持ちを対象にして度々こういう誘拐は起こる。外国人の誘拐は余りないけれど…。でも、単なる誘拐ならば、ちょっとしたお金で解放される。誘拐した人たちは(現地では)わかっているので、村人たちが解放の窓口になって交渉をしているだろう。ただしタリバーンが絡んで、外国のNGOにはアフガンから退去して欲しい、あるいは誘拐を政府との交渉材料とする場合は長引くのでは?  パキスタンやアフガン人のちょっとした誘拐(誘拐というよりカツアゲ)は良く起こる」と言うので、身代金狙いの単純誘拐であることを祈っている。
とは言え…支援活動では、良くも悪くも現地との濃厚な接触が避けられない。現地では利害対立の村人が出て当然で、利害を挟んでのトラブルに巻き込まれることも、ままある。それは、オバハンたちにも当てはまることだ…

大統領選出の選挙が9月6日に実施される。 パキスタンの憲法では、大統領ポストが空席となってから30日以内に、国内4州の州議会と国民議会の議員によって、新大統領を選出することになっているということを、改めて知った。

昨日、PPPは大統領候補にブット元首相の夫ザルダリを擁立すると決定…
ブットの家族は海外亡命をしていたが、ブット元首相の暗殺に伴いドサクサに紛れて帰国を果たし、あれよ!あれよ!という間に大統領への道まっしぐらだ。 巷では、ザルダリがいい気になり過ぎているとの声も高まり出している。

ムシャラフの汚職も凄かったが、ザルダリならば…その上を行くだろう。そのザルダリが大統領… パキスタンの将来は暗澹…

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