2008年01月

先週末から北西辺境州、ペシャワールの南では軍(治安部隊)とイスラーム武装勢力が大々的な衝突を続けていたが、政府発表ではコハット・トンネル(日本のODAで作られた)を軍が昨日、掌握したと伝えている。このオペレーションでは、ペシャワールとラホール間のインダス・ハイウェーは封鎖されていた。しかし、軍がトンネルを奪回したからと言って、安心して走れるものでもなさそうだ…(トンネルから100kmばかり南、バンヌーの学校で過激派の立て篭もり事件あり。すでに人質は解放され解決したようだが、上記との関連は不明)

ペシャワールの北でも、仏教遺跡の広がるスワット地方で軍がオペレーションを展開、 外国人ばかりか外部の者はパキスタン人でさえもスワットには入れなくなって久しい。早い話が今のところは北西辺境州に限られているが、パキスタン国内は内戦状態だと感じるパキスタン人も増えている。

ムシャラフは1週間におよぶヨーロッパ訪問で、自分とパキスタンの立場を説明。そろそろ帰って来るが、国内では政府とイスラーム過激派とのあからさまな衝突。エネルギー問題など様々な火種が燻っている。
特に電気やガスなどは全国民の生活に直接振りかかる問題で、ないがしろには出来まい…と思っていたら、「政府がブット元首相(PPP)に対する国民の同情や関心を、電気やガス、主食の不足へ振り向けるための古典的な手法だ」と、知り合いの退役軍人にバッサリ切って捨てられた。

確かにブットが殺された直後からの電気、ガス、水、主食不足。国民は日々そればかりを追いかけ、考えることになってブットに対する関心どころではない。ムシャラフが総選挙に勝てるとふめば、投票日を日延べしないだろうとは退役准将の話で、なるほど~~と、肯いてしまったオバハン。

ついに昨晩は、わが家にもガスが来なくなった… 30数年のパキスタン生活で初めてだ!
前にもこのブログで書いたが、 わが家はパキスタンで一番生活基盤の良い地域にあり、VIPの住人も多いことから他地区よりは優遇されている。にもかかわらず、とうとう(一時的にであれ)ガスなし政策の中に組み込まれた。

日本も寒いと思うが当地も寒波にスッポリと覆われ、政府発表では首都イスラマの最低気温が-2℃。BBCによると毎日の最低気温は-4℃が続いている。TVや新聞などメディアに対する政府の圧力は凄いらしく、特にTVはニュースですら政府がイチイチ検閲をするという…… 

その寒い日が続く中で全国的にガスも電気も統制で、政府はいったい何を考えているのか?
昨冬に比べても電気やガスの供給事情が大きく変わったとは思われない。確かに人口は増えている、家電機の購入も増えただろう… しかし、ここまで大幅に電気やガスが足りないのはオカシイ!

オバハンは事務所で極小のガスストーブを使っている。点けていてもさほど暖かくはないのに、そのストーブがポポポポと音をたてた後、沈黙してからの冷え込みよう… おまけに停電が日に5回、5時間。他の都市部では1回の停電が数時間、それが何回もというから、それを思えばわが地区はマシだ。

しかし、この寒空に予告もなく突然ガスが停まり供給が再開されれば、安全装置などのない国産ストーブではガス中毒死をする人も多かろう。政府が情報のコントロールをしているから、中毒死者の数は判らないが大変なことだ。また夜、食事にもあり付けずに眠り、そのまま凍死する人も多いのではないか? 暖冬であっても凍死者が出るパキスタン(珍しさのあまりか)新聞にも載るが、今冬は厳しい寒空にそのニュースもないのはオカシイ。

政府は国民に不便を強いることで市民の暴発を促し、何かをやりたがっているに違いない…。もしかしたら総選挙の延期を狙っているのかも… 

今朝はどの新聞も1面トップで、昨日、北西辺境州ダッラの町で展開された政府軍によるタリバーン掃討オペレーションを報じている。ペシャワールから南へ1時間、ダッラの町は僅か3~4kmの街道沿いに1000軒くらいの、家内製作による銃器工場があり、世界中の大小様々な銃器の模造品を作っている。ここではmade in Japanのボールペン型ピストルも作られている。ペン型ピストルは、もちろん字も書けるし至近距離なら人も殺せる。

そもそもの発端は、政府軍が5台のトラックに山積みにした武器弾薬をダッラの近辺でタリバーンに奪い取られたため、取り返しだとかで戦車や攻撃ヘリコプターまで出動しての大オペレーションだった模様。ただ、面白いというか面白くないというか、政府発表とタリバーン発表が違いすぎること。
政府発表は政府軍の死者2名、タリバーン側35名。しかし、タリバーン発表によれば政府軍兵士30人を拉致、19人の犠牲者… 政府軍兵士がタリバーン側に数十人の単位で拉致されるのは、今までにも何度かあり、今回に限ったことではないが、お粗末だ。このオペレーションによってダッラ近郊地域からは2万5000人が避難。

うがって見るなら、先日の米国防長官談話報道の布石ではないか? 曰く「パキスタン政府からの要請があれば、(国際テロ組織)アルカイダ掃討のために、米軍を派遣する準備がある」と述べ、パキスタン派遣に前向きな姿勢を示したと。
対してムシャラフは昨25日、「国民感情が許さない。米軍は我々以上の成果は上げられない」と拒否したというが、ムシャラフの言うことは日々、コロコロ変わるのでな~~んも信用できない。

最近発表された12月期のアメリカの失業者数は13%を超えているという。 さらには(良くは知らないが)サブプライム問題とやらで、損失補てんのためにシティグループだったかが、アブダビ投資庁から10%の利子で750億$(8兆円近い)を借り入れたという。10%もの金利を払わなければ借金が出来なくなっているようなアメリカに、他国で戦う力が残っているとも思えない。しかしメディア操作は米英のお手のもの、パキスタン(アフガン)やイラクへの派兵、アルカイダやタリバーン掃討作戦…というアドバルーンをポンポン上げて当事国を脅かし、揺さぶりをかけ、圧迫するのが狙いなのか?

昨秋からの諸物価値上がりに付き、ようやく政府は対策を講じようとしている。政府が対策を講じなければならないほど、食べられない人が増え、不穏になっているということだ…

主食の小麦粉がマーケットで足りなくなったのには、つい先ごろまで首相だったアジーズが、小麦を1トン200$で輸出にまわし(結果、いっぱい儲けたらしい)、マーケットで足りなくなったからと今度は500$で輸入をしているのが問題になっている。他、いろいろあって告訴され、アジーズは総選挙にも立候補出来ていないという。

アジーズも、首相就任直後の施策では大いに評判を取った。中でも破綻しかけていた国家財政を立て直した功は大きい。昨年度前期までの経済成長率は8%、全国的には中産階級も増えた。しかし、在任が長くなれば、いずれの指導者も腐るようだ。水は一時も澱むことなく、流れ続けないと腐るのと同じか…

で、政府は10日間の調査期間を設け、貧しい人々のリストアップに励むと。結果、貧しい人々に対して、食料が安く買えるカードを2月8日より配布すると発表している。貧しい人々にとっては大変結構そうな施策だが、これにも僅かでも賄賂を渡せる人と、まったく渡せない極貧とでは差がつくのだろう。

国民の50%が1日1$以下で暮らしているパキスタン。イスラーム教徒にとっては、神によって定められた「運命」である以上、貧乏は恥ではない。
しかし誰かが得をし、だれかが損をするという、施策による不公平での貧しさは、大きな反発を呼ぶ結果になるだろう。痛し痒しだ…

先週末の19日から首都は再び厳重警戒中。非常事態宣言解除後に減っていた、街角に積まれた土嚢や道路封鎖(検問)地区が再び増えた。イスラーム教シーア派の大切な行事、アシュラ(19,20日)のせいもあったろうが、この数日は電話回線(携帯電話も)が不定期に繋がらない。ネット回線も当然のことながら悪く、明らかに通信妨害なのだろう…と、イライラしてしまう。
今朝もネットになかなか繋がらず、途中で切れてしまうので、またまた意地になって投稿を繰り返していたら、オバハンのきまぐれ通信に同文が重複掲載されているとの注意を頂いた(深謝!)。

首都で生活基盤の一番恵まれた地域で暮らしているにもかかわらず、オバハンですら通信回線だけではなく、電気もガスも水にも不便をするようになって来た。パキスタン人たちも独立以来の治安の悪さ、不安定な政権に(どことなく不安を感じて)怯え沈んでいる。
アメリカにとっての今現在の選択は、イスラーム原理主義者よりは、独裁のムシャラフ政権の方がマシというところだろう。が、国民のムシャラフ離れ、日々の生活にも不便な毎日。彼らパキスタン人たちの長年の経験から言うなら、電気や通信障害のある時には、何時なにが起こっても不思議ではないという。

電話が繋がらなくなるたびに、もしや重大オペレーション(クーデター)が何処かで執り行われているのでは??とオバハンも神経を尖らせてしまう。また部屋の中で本を読みながらも、(大統領府が近いこともあって)神経は上空で音するヘリコプターに向けられている。

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